・・世界樹の迷宮・・











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深緑が茂る街エトリア。

街は多くの人で賑わい、常に活気付いている。


鍛冶屋が叩く鉄の音
意気の良い売り子の声
吟遊詩人の華やかな歌
そして意気揚揚と歩く冒険者達の靴音


おそらくもう何年も何十年も続いてきただろう人々の営みが此処にはある。望んでやまなかった美しき愛しい世界―――


「失礼します。」

扉を数回叩いた後、一人の青年が静かに部屋へ入ってきた。

「件の冒険者達が第四階層のさらなる探索の為に、現在解読中の石版の返却を求めてきております。…如何致しますか長。」

長と呼ばれた男は美しい深緑が見える窓からゆっくりと青年の方へ視線を移す。

「詳細を聞こう。」

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「……なるほど。必要とあらば石版を返却してもよかろう。」

報告を終え、特に問題のない様子に青年は安堵の表情を浮かべた。
「それでは。」
「ただし、」
厳しい表情のまま長は続ける。

「先の報告にあった冒険者達を阻害するモリビトども、やつらの殲滅ミッションを発動せよ。それを受領する事を条件とする。」

「…しかし長。彼ら、モリビトは人にあらずとは言え、その容姿や知能は殆ど人と変わり無いとの報告も受けております。まず一度接触させてからでも遅くはないのでは?」

「お前の言う事も一理ある。だが既に幾多もの冒険者がモリビトどもに殺され続けておる。やつらが和睦に応じる道理がない。甘い考えは捨てよ。」

「……。」
「不満か?」
「!いえ、そうではありません。ただ…。」
「ただ?」
「…ただ私なりにこのエトリアの街がどうしたら平和に栄えるのか、その術を常に模索したいと思っております。血を流すだけが術ではないと…。」

少し遠慮がちに述べる青年の表情には畏敬や不安、様々な感情が混同している。それでも『街の為に』という真摯な想いは確実に見て取れた。


人は何故こうも複雑で愛しい生物なのか。


長は表情を緩めて青年に近づくと彼の頬に手を当てる。
「多少の意見の相違は仕方あるまい。だがエトリアを想う気持 ちは私も同じだ。この街の繁栄の為に、街の人々の為に……。 私は今まで一度たりとも民を裏切った事はない。」
「…はい。重々承知しております。」
頬に触れる冷たい感触に驚く様子もなく受け入れた彼の少し癖のある髪を軽く弄ぶ。

「お前達の働きと忠誠には感謝しておる。 思う所はあるかもしれぬがこれがこの街にとっての最良の術なのだ。従ってくれるな?」
「長がそう仰るのであれば御意のままに。」

「それで良いオレルス。愛しきラーダの子よ。」
「…ウィズル様。」

名を呼ばれ、青年の顔に一瞬朱が刺すのを見て満足そうに微笑むと長は身をひるがえす。
「では、彼の冒険者達の元へ行こうか。」
再び青年の手によって扉が開かれ、堅い靴音がそれに続いた。


*****

絶望の淵の中で何百、何千年と待ち続けた人々の復興。
愛しき街も、愛しき人々も美しい深緑の樹海と共に今この手にある。
それが唯一の望みだった。

今は―――――
そう、続けなければならない。
この世界を。

例え何十、何百という人が、獣が、屍と化し大地に血を流そうと。
その血を世界樹は必要としているのだから。

「あの二人に…働いて貰わねばなるまいな…。」
低く呟いた言葉は誰の耳にも届かない。



すべては私の―――――美しき偉大な世界樹――――――の為に


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世界樹の迷宮。
執政院の兄ちゃん萌えだった自分は長×眼鏡だった訳ですが終盤はいろいろ切なかったっす。眼鏡属性はない筈なんだけどあの甲冑が!手袋が!相まって素敵。
「オレルス」の名は例の非公式資料から。