・・(ひとつ)・・









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昨日と違う自分がここにいる。

目の前が赤く染まっていた。
いや、その染みは今尚広がり続けていて過去形で語るには時期尚早かも知れない。
その染みの中心にいる「物体」は既に動きを止めている。

不思議と何の感慨も湧かなかった。
職業柄、刺殺体や変死体は見慣れている。
だがそれはあくまでも第三者としてであり、事の当事者として目の当たりにするのは今回が初めてだというのに、だ。
むしろ他の死体を見た時の方が余程何かしら人としての感情を抱いていただろう。

後悔、哀憫、葛藤・・・
達成感すらないのはまだ全てが終わってないからなのだろうか。
殺意は昨日と言わず幼少の頃からずっと抱いていた。
だが事に至った今日になっても胸に燻る想いを消せずにいる。

思っていた以上に自分は冷酷な人間なのかも知れない。
これまでの自分の生き方を疑問に思わなくもない。それでもやはり目の前の「物体」を先程まで生きていた「人間」として見る事はできなかった。

明らかに昨日とは違う自分。
違うというより隠れた一面が現れたのだろう。


間違った事はしていない。
こいつは相応の事をしでかしたのだから。
例え自分が法の名の元に裁かれ様とも何も悔い改める事はない。
こいつは人ではないのだから。
だから、この惨状を見ても何も感じない自分を嫌悪する事もない。
ない筈だ――――――

広がる染みはいつの間にか止み、赤黒く変色していく。
己が浴びた鮮やかだった返り血もすでに赤黒く変色し乾いている。


なにも恐れる事はない筈だ。
覚悟はとうの昔に決めている。
上手くいけば問題無い。


上手くいけば。
冷酷な自分を一生押し殺して幸せに過ごせるのだろうか。
妹と共に。何より、彼の人の元で。
彼の人は自分がこんな人間だと知れば、どんな顔をするだろう。
恐らく絶対に許さないだろう。

後悔はしていない。
「人殺し」と言う名の罪を被る事は恐くない。
自分にとって「正義」であるのだから。
今ここにある現実から逃避する気もない。
冷酷な自分がいる事を否定はしない。
それでも、

ただひとつ。
ただひとつの存在が昨日までの自分と今の自分を辛うじて繋ぎ、また縛りつけ、・・・諦めきれずにいる・・・・・。


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短いのに暗い。暗いよヤス(苦笑)
窓口用に絵描いててちょろっと浮かんだので久々に打ってみました。カットは当然そのまま使途変更。
ゲーム中、ボスと一緒にいる時は普通に明るくて間抜けな分「犯人」という事実は衝撃的であり萌えだなーと思ったり。